“西北西”に祈りを捧げるあなたの姿を
見つめて知った。愛と祈りは似ていると。
レズビアンのケイは、モデルの恋人アイとの関係や自身の生き方に不安を感じる日々を過ごしている。
一方、日本画を学ぶムスリムのイラン人留学生ナイマはビザや、将来的な日本での生活、同級生との交流に不安を抱えていた。
ある日、ナイマとの出会いをきっかけにケイの中で何かが変わり始める。
異質なものに触れることへの恐れ、戸惑い、拒絶…。
3人の女性たちはそれぞれに性別、国、文化、宗教のボーダーで揺れるカオティックな感情を抱えながら、自らにとっての“西北西”を探求していきます。
鈴木清順監督『ピストルオペラ』でデビューし、是枝裕和監督『誰も知らない』に出演するなど名監督から愛され続け、瀬々敬久監督『菊とギロチン』にも出演の韓英恵、バラエティ番組で7本のレギュラーを持ち活躍する一方、舞台や映画作品にも出演し、存在感を発揮するサヘル・ローズ、そしてオーディションで選ばれた山内優花が、三者三様の生き方を演じます。
俳優出身の中村拓朗監督は、初の長編作品である前作の『TAITO』(緑朗名義で監督)が、第33回PFFぴあフィルムフェスティバルにおいて審査員特別賞を受賞。今作は、満を持しての長編2作目で釜山国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭、レインボーリール東京など、世界各国の映画祭にも多数正式出品されました。
韓英恵(ケイ役)
1990年生まれ。静岡県出身。2001年鈴木清順監督作品『ピストルオペラ』の少女・小夜子役に大抜擢される。
続けて04年には、カンヌ国際映画祭で絶賛を受けた是枝裕和監督作品『誰も知らない』に出演し、国内外で話題となる。
その後、滝田洋二郎・SABU・塚本晋也・石井岳龍など日本映画を代表する名匠の話題作での出演が続く。2018年『霊的ボリシェビキ』『大和(カリフォルニア)』の主演作とともに、『菊とギロチン』のヒロイン役で注目を集める。
サヘル・ローズ(ナイマ役)
1985年、イラン生まれ。8歳で来日。高校時代から芸能活動を始める。モデル、ラジオ番組の出演を経てバラエティ、情報番組のキャスターなど、マルチタレントとして活躍。レギュラー番組を7本持つ。
近年の舞台「千夜一夜」「メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX」「時代はサーカスの象にのって」、映画「東京島」「ペコロスの母に会いに行く」「振り子」「みんな!エスパーだよ!」「永い言い訳」「銃」ほか。
主演を務めた映画「冷たい床」は様々な国際映画祭で上映正式出品され、最優秀主演女優賞ノミネートされるなど、映画、ドラマ、舞台など女優としても活動の場を広げている。
山内優花(アイ役)
歌とダンスの特技を活かして、ミュージカルや舞台などで活動。
主な出演作品は、乃木坂46版ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」大阪なる役、ミュージカル「少女革命ウテナ〜白き薔薇のつぼみ〜」アンシー役(2018年)、舞台「光の光の光の愛の光の」、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』(15年)、『K』(14年)、ミュージカル『AMNESIA』(14年)など。
中村拓朗 監督
早稲田大学大学院卒。俳優としての活動を経て、長編1作目 『TAITO』を監督(緑郎名義)。
『TAITO』は、第33回PFF ぴあフィルム フェスティバルにおいて、審査員であった映画監督・瀬々敬久氏の強い 推薦を受け、審査員特別賞を受賞。 公益財団法人UNIJAPAN が若手人材育成事業において製作した短 編映画『I’m Home』は、オーバールック映画祭2013(イタリア)や新宿バルト9をはじめ全国6都市で公開された。短編映画 『UNCONSCIOUS』では東京で生きる現代人の孤独を描いた。 また、写真作品『東京』を企画、演出するなど表現の幅を広げている。
−どのようにしてこのストーリーは生まれたのですか?
極私的な体験が基になっています。
それは遡ること十数年前、私にはお付き合いをしている女性がいました。 彼女は私を非常に理解してくれ、それまで感じたことのない愛情を注いでくれました。
しかし、私はそれに応えることができませんでした。何故かは分かりません。恐らくそんな愛情をこわく感じたのでしょう。
同時期に私はある男性に好意を抱きました。彼は専門学校の同級生で屈託の無い笑顔が印象的な人でした。
同じようにそれまで感じたことのない感情でした。当時の私はまだ若く、とても困惑し、自分を恥じ、
気味が悪いとさえ感じたのを鮮明に憶えています。
その時に感じたカオティックな感情を登場人物の三人に託して映画に焼き付けたかったのです。
−なぜこのようなストーリーを伝えようと思ったのですか?
同性・異性に限らず他者を好きになること愛することは、人に備わったポジティブな面の一つと考えています。
しかし、他者を想うあまり生じる、苦しみ、葛藤、怒り、嫉妬、憎しみといったポジティブのなかに潜むネガティブな面に目を向け、
「他者を想う」事とはどういうことか考えてみたかったのです。
−『西北西』という題名はどこからきているのですか?
東京からメッカに祈りを捧げる方角が西北西になります。
−日本を背景にイラン人が主役となっている映画ですが、この設定のどういうところがユニークなのでしょうか?
そして、なぜイラン人のキャラクターにしたのですか?
ナイマが未だ嘗て無いほど心を掻き乱されたのが国籍や文化、価値観、味覚さえも違う日本の女性だった...ということでしょうか。
なぜイラン人のキャラクターにしたかといえば、ナイマを演じるのはサヘル・ローズでなくてはならなかったからです。
彼女の人間性はナイマそのものであり、体現できるのは彼女しかいないのです。
−日本の文化、社会のなかではレズビアンの同性愛は抑圧されているのでしょうか?
レズビアンに限らずLGBTQへの寛容さは増してきています。
それは当事者の皆さんが声を上げて権利を主張してきた結果が今に繋がっているといえます。
しかし、同性婚やパートナーシップ法といった社会制度はまだまだ未熟です。
大切な人と安心して生きて暮らしていける社会になってほしいと思います。
−この映画を見た人たちに何を持ち帰ってもらいたいですか?
排他的な傾向にある現代ですが、今一度「他者を想うこと」を考えるきっかけになれば幸いです。
©2018「西北西」
こんな韓英恵、見たことない。最高の演技!
大島渚監督の『愛と希望の街』から59年、再び社会と人間の疎外と断絶が、清新に鮮烈に、ここまで描かれた。
ー瀬々敬久
(映画監督『菊とギロチン』『ヘヴンズ ストーリー』『64 ロクヨン』)
誰かが誰かを想うとき、自分の大切なことも後回しにできるかどうか。神様や信条より、大切な人を信じることができるかどうか。曖昧な愛、答えの出ない問、そんなことがたくさん詰まっている映画。少し甘いけど。
−今泉力哉
(映画監督『サッドティー』『パンとバスと2度目のハツコイ』)
宗教、ジェンダー、多様性を巡りこの映画はたくさんの問いを投げかける。この地球上で人と人が出会うことの不思議さ、その交差する稀有な運命を思い、心かき乱される映画だ。女優・サヘル・ローズの確かな演技力、美しさ、存在感が素晴らしい!
-園田恵子
(詩人・映画批評家、『シネフィル』編集長)
人を愛すると、他人と自分が1つになれることを知る。これまでの人生だけでは感じなかったことを。あなたは私の鏡になる。きみを見れば、ぼくが見える。
けれど、そう簡単に自分と他人という境界を超えないためにこの社会には決まりごとがある。宗教、国籍、ジェンダー、職歴。
他人を愛することは、怖くもあり、夢想的かもしれない。 ただ、その壁に勇敢に立ち向かう二人が『西北西』には輝かしく映っている。世界は1つしかないことを、二人が証明してくれる。
-小川あん (俳優)
西北西を見上げると、そこには求めていた救いの光などはなく、代わりに鴨頭草色の空がひろがっていた。
この空の下、スタバのテラスではスンニの青年がiPadを叩きながらシーアの女性に自分の愛の正当性を説いている。いそいそと駅に向かうニジェール移民の中年女性はサムソン製のスマホの向こう側にいる新疆ウイグル育ちのガールフレンドにむかってトランプ政権の女性政策批判を披露している。ファミマの前ではEDMのオールナイトイベントに参加してクタクタになったアルゼンチン人の少年と北アイルランド人の少女が、まだキスもしていないし、このまま帰るのがなんとなくいやで、無為に時間を過ごしている。
この映画はそんな世界の、そんな時代の記録だ。
-宮崎大祐
(映画監督『夜が終わる場所』『大和(カリフォルニア)』)
韓英恵さんの魅力に圧倒されました。
-二ノ宮隆太郎
(映画監督『枝葉のこと』『お嬢ちゃん』)
日本の物語に見えないけれど、確かに存在する現実。「あたりまえ」といわれるものから外れた人間たちが「あたりまえ」を求めること。それらが織りなすトキメキや痛みに、心がかき乱されて泣き出してしまう。普通の日常、普通の恋愛、普通の幸せ。
-井樫 彩
(映画監督『溶ける』『真っ赤な星』)
「自分」とは、とても近いようで、実はいちばん遠い存在なのではないかと思う。よく分かっているようで、いちばん理解しがたく、向き合いやすいようで、いちばん目を背けたくなる。
そんなとき、ふと「他者」に目を向けてみる。 他者が見つめる世界を見つめようとしてみる。
すると気づけば、今までには見えていなかった自分が見えてくる。
新しい自分が生まれている。そしてふと気づく。誰もがマジョリティでありマイノリティであり、傷つけられることもあれば、傷つけることもあるのだと。
これは、異質な他者たちがめぐりあったことで生まれた、特別なようで、私たちの周りにもきっと溢れている物語だ。
-アーヤ 藍
(MOTIONGALLERY コミュニティディレクター)
文化、性、宗教的ボーダーを繊細に織り込み、不確かな未来への道を探っている美しい3人の女性についてのムーディでロマンティックなラブストーリーだ。
−VARIETY
大部分の日本のインディーズ作品とは違った、特徴的な視覚の美学とムードがある。
美しい女優たちが一緒にいる場面の彼女たちの力は必見である。
−ドン・ブラウン
行き場のない若い彼女たちのガラスのように繊細な感情をエキスパートの如くキャプチャーしている。
−キム・ジソク(釜山国際映画祭エグゼクティブディレクター)